羊の国の「イリヤ」
福澤徹三
この男、絶体絶命! 悪夢のような小説。
食材偽装を告発し経営を刷新しようとした役員への協力を疑われ、子会社に左遷された50歳のサラリーマン、入矢悟。
食品加工工場の過酷な業務に耐えかねて本社への復帰を図ったが、冤罪での逮捕をきっかけに解雇され、家庭は崩壊する。
さらに悪徳プロダクションの罠にはまった大学生の娘に助けを求められるが、歌舞伎町のプロダクションを訪ねたその日、娘に渡そうとした最後の有り金を根こそぎ奪われる。
働き口を求めて、留置場で同房だった男に聞いた自動車修理会社に出向いてみると、今度は経営者が自殺を装って殺害される現場に遭遇してしまう。
入矢もその場で殺されそうになるが、娘を救い出したいと必死に命乞いをして、半年だけ命の猶予をもらう。
「きょうは十月十三日だ――あんたの寿命は、長くても来年の四月十三日までってことだ」
そこにいた殺し屋、四科田了は、あらゆる常識を超越した男だった。四科田の指示どおりに動く日々が始まった。
残された日々で娘の行方を突き止め、救出することはできるのか。そして、四科田から逃げのびることはできるのか。
中盤からの目くるめく展開は圧巻の一語に尽きる。一気読み必至のエンターテイメントだ!
「食材偽装を告発し経営を刷新しようとした役員への協力を疑われ、子会社に左遷された50歳のサラリーマン、入矢悟。」というところだけ見て、読み始めた本です。
孤軍奮闘で会社と戦いながら、最後は勝利してクリーンな会社になってめでたしめでたしの痛快な内容かと思っていましたら、子会社に左遷どころか、次から次へと起こる不運に見舞われて、生きていくことさえ辛くなるほどの状況にまで転がり落ちていく話でした。
これまでの人生で構築されてきた人間関係の中で、味方になってくれる者はゼロ。家族さえも。
そんなどん底で手を差し伸べ、味方になってくれたのは闇の世界の住人たちという、なんとも皮肉な話です。
538ページという長編でしたが、面白くて最後まで一気に読めました。